【掲載記事】
「藁の家をつくる会」
21世紀の自然循環型社会を目指して。
地域の枠を越えた仲間たちが取り組む
環境に優しい藁の家づくり。
今ではほとんど見られなくなった、壁全面にワラを使った家づくりが進められている。建築現場は佐賀県山内町鳥海の神六公園近く、山間に広がる1万m2の土地。山内町の隣、武雄市在住の一級建築士・山田信行さんを代表に『藁の家をつくる会』の30人が、毎月第3日曜を作業日にあて、今年1月から手掛けてきたのだ。
そもそも山田さんがワラの家づくりを提案したのは、現代の建築工法に疑問を抱いたことがきっかけ。
「シックハウス症候群など、有害物質による人体への影響がある今の建築工法には問題があります。
温暖化、ゴミ問題など、これからは環境に優しい建築を考え、建築業界が真っ先に実践していかなければなりませんね」と指摘する。山田さんの呼びかけに賛同した大工、塗装、左官、家具職人たちも、プロの技術を活かして協力している。
「ワラ」とは稲ワラやカヤ、葦などの茎を乾燥したものの総称。現在建築中の家の材料は現地に生えているカヤ。これを乾燥させ、厚さ40〜50cmにプレスし、ブロック状にした「ベイル」と呼ばれるものを一つずつ積み上げ、その上に土を塗り、しっくいで仕上げていく。日本には栃木県に1軒だけベイルを使った本格的な住宅があり、それらの資料を見ながら造ったのだそう。面積は10畳ほどだが「予想以上に風通しが良く、居心地がいい」という。夏は湿気を吸収し、冬は湿気を外に出すワラと土の特性のため、室内はいつもバランスの良い湿度。また、戸外との温度差ができることで、風が発生して夏は涼しく、冬は窓を閉めればベイルの厚みが優れた断熱性を発揮して暖かく過ごせるというのだ。実際、室内に入ってみると涼しく、空気も優しく感じる。山田さんが目指す「呼吸しやすい家」を実感できる。
ワラの家には、屋根の骨組みの一部に廃材となった電柱が、天井には竹がと、周辺にあるものがうまく使われている。「解体してもほとんどが土に返る素材なので、循環型社会には素晴らしい家です」と山田さんは太鼓判を押す。メンバーの一人で画家の草場一寿さんも「循環型社会は避けては通れない。まだ実験中ですが、地球規模で考え、足元で実践する、このワラの家が小さな一歩として世界につながるといいですね」と期待を寄せる。
12月頃完成した後は、子どもたちの教育の場としても活用される。「将来は循環型社会に対応した風力発電を設置し、畑を作って地域自給自足型のエコビレッジを目指します」と山田さん。
21世紀型の建築「ワラの家づくり」の挑戦は始まったばかりだ。
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