テ レ ビ 放 送
 ■5月2日 午後6時00分〜  NHK 『ニュース6佐賀』 佐賀版
 ■5月7日 午前7時35分〜  NHK 『おはよう日本』  九州版


2002年(平成14年)5月29日(水曜日)  毎日新聞 掲載

【報道記事】

 「藁の家」と言っても童話「三匹の子ぶた」でオオカミにふきとばされたようなちゃちな家じゃない。わらを固めたブロック製で、多少の雨風ではびくともしない。シックハウス症候群などとは無縁の天然素材を使用、壊した後は土に還り循環型社会にぴったり。こんな優れものの家づくりが、佐賀県山内町で市民グループの手で進んでいる。五月晴れのある日、現場を訪ね、家づくりに参加した。

 佐賀市から西に30キロ、長崎県波佐見町境の神六山のふもとで家づくりは進んでいる。建てているのは「藁の家をつくる会」=山田信行会長のメンバー。月1回の作業で、地ならしや基礎工事は終わり、この日から、わらを固めたブロック「ベイル」(幅75センチ、奥行き30センチ、厚さ40センチ)を積む作業が始まった。

 藁の家を思い立ったのは会長の山田さん。1級建築士として仕事をする中、接着剤や建材の防腐剤などに化学物質が使われ、シックハウス症候群が問題となる家づくりに疑問を持った。「心地よい家をつくってみたい」。調べるうちに、目にとまったのがわらの家だった。米国ではストローベイルハウスとよばれ、実際に住んでいる人もいるという。「これなら人にも自然にも優しい」。山田さんの呼びかけに、建築会社社長や測量士、左官など、約30人が集まった。

 作業は、昨年秋、建設現場のススキを刈り取ることから始まった。1、2月に天日に干して乾燥させ、干し草を作る機械で固めた。ベイルは重さ約10キロだが、積み上げ作業は楽ではない。家は幅4.4メートル、奥行き3.6メートル。5段に積み上げるのには100個のベイルが必要だ。初夏の日差しに焼かれながら、両手でベイルを抱えて何度も運ぶ。傍らでは、子どもたちが積み上がったベイルのすき間を、石灰やわらを混ぜて作った泥で塗り固めていく。

福岡県筑紫野市から通う測量士の谷口敏之さんは「ここにくると童心に帰る。8月には初めての子どもが産まれるが、いつかこんな作業を一緒にやれたら最高」。

 建築のプロたちが、積み上げたベイルがきちんと水平になっているかチェックする。こっちには、竹割りの作業が回ってきた。等間隔に竹の棒を立て、ベイルをひもで結んで固定するのだ。ナタで縦に4分割するのだが、刃がひっかかってうまくいかない。「『木元、竹裏』といって、竹は頭から刃を入れるんだよ」。教えてくれた男性は学校の先生だった。教えに従ってやってみると、なるほどすーっと小気味よく割れていく。

この日の作業を終え中に入ると、8畳ほどの広さ。何か柔らかいものに包まれている感じで、住み心地がよさそう。7月の完成が待ち遠しい。



2002年(平成14年)5月12日(日曜日)  佐賀新聞 掲載

【報道記事】

杵島郡山内町鳥海の神六山山中。一万平方メートルの広大な土地に緑が広がる。月に一度、大人や子供たちが、藁を建材にした家づくりに取りこむ。
「藁の家をつくる会」。循環型社会を学んだり、自然とふれあう場となるエコ・ビレッジも建設を目指そうと町内外の三十人が集まった。
「バブル期から自然をないがしろにした消費社会では将来、必ず生詰まる時がくると感じていた」と発起人の一人、武雄市の建築士山田信行さん。予感は現実となり、「循環型社会」が時代のキーワードになった。


村づくりの第一歩
1994年、インターネット上にバーチャルの村をつくった。世代、職種は違っても同じような考えを持つ人たちが ”村民”となり、次世代のため環境や人間生活において何ができるか、論じ合った。
だが、現実に拠点はなく、顔も見えない。そんな欠点を補おうと、月に一度は県内各地で会合を開き、環境問題にとりくむ現場を訪ねた。
そこに、バーチャル村実現のため仲間の一人が土地の提供を申し出た。仮想ではなく、目に見える本物のフィールド。「これまで語り合った構想が実現できる」。希望が広がった。
そのころ山田さんは植物を建築素材に利用した家づくりを紹介する本に出合った。藁でつくった家の話もあった
。穀物類の副産物として生じる藁は、ほとんど見向きされなくなった。だが、土から生まれて土へと還っていく藁に奥深さを感じた。「藁の家こそ循環型社会の実践でもある」と建設を提案、村づくりの第一歩となった。

 すべて天然素材
 今年一月、工事に着工した。メンバーは農家、酪農家、測量士など多彩な顔ぶれ。専門技術を生かし建設に携わる。材料の藁は現地で無数に生えるカヤ。藁をブロック状にし、ベイルと呼ばれる固まりをつくる。骨組みは木材、土台は取り壊された蔵の基礎部分をリサイクルした。すべて天然素材にこだわる。ベイル一つ約十五キロ。会員たちは重さに耐えつつ藁くずまみれ、ベイルを積み上げる。つらい作業にも、「ものづくりの楽しさ」を共有する。
 五月の連休には「山菜てんぷらの集い」を催した。大人が子どもたちにそこらで採れた山菜の種類を教える。自然とのふれあいを実体験する場になった。

 仲間の情報後押し
 最終的な村全体のデザインはこれからだが、「この地に人々が喜んで集い、自然に暮らせるような空間づくりを目指したい」と山田さん。
ネット上の仲間たちからは、風力を利用した発電システム、地中の微生物で水を浄化する土壌浄化槽など、さまざまな実践や情報が届く。彼らのエコ・ビレッジ構想実現を後押しする。
 広さ八畳の小さな藁の家。だが、会員たちの思いと夢は数十倍、数百倍に膨らんでいく。この夏には完成予定だ。